「はい、お疲れ様でした。お約束の100万円です。お受け取りください。」
「エー! イマノデオワリ? ラックチーン! モウイッカイヤロット!」
「ええ、何回でも結構ですよ。どうぞどうぞ。」
「カチリ」 パチッ
「ン? アレ? オワッタ?」
「はいはい、お疲れ様。100万円です。お受け取りください。」
「ヤッタ! ホントーニイイノカナー コンダケデ100マンモラッチャッテ♪」
しぃ美はこのやりとりを見ていて、そんな危険でも無いのだろうと言う考えを持った。
そして、しぃ美も、モラ則に決心を打ち明けたのである。
「アノ・・・ ワタシモヤラセテクレマセンカ?」
「ええ、いいですよ。それではこのボタンを押してください。」
「ハイ」
しぃ美は突起上の赤いボタンに指を当てると、そのまま押し込んだ。実に軽い気持ちで。
「カチリ」
パチッ
一瞬、頭の中で静電気が鳴ったような感覚を覚えた。刹那、しぃ美は『何も無い空間』に立っていた。
足元は風呂場に良くあるタイルを大きくしたような物が敷き詰められている。
空は、ただ、白かった。何も無かった。それが永遠に、どこまでもどこまでも続いていた。
文字通りの、殺風景な地平線が果てしなく続いていた。
しぃ美は、一通り周りを見通した後、呟いた。
「コンナトコロデ イチオクネンモ クラスノタイクツソウダナ・・・」
しぃ美は、まだ『一億年間』という長さ、この空間の恐ろしさに、まだ気づいていなかった。
−何も無い空間に 放置され続けるという事 これに勝る 虐待は 無い。−
しぃ美は、とりあえず暇を潰す為に簡単な遊びをやった。
足元のタイルの線を踏み外さないように歩いたり、タイルが何枚あるか数えたりもした。
しかし、20年もたつと、さすがに何もしなくなった。
「ハニャ・・・・ モウイヤダヨ!! コンナナニモナイトコロ! モウカエル!!」
しぃ美はこの何も無い、虚無の空間から逃げ出そうと、走り出した。何処へ行く当ても無く。
しかし、行けども行けども同じ景色。そのうち疲れて走ることも出来なくなった。
−無論、途中でやめる事は出来ません。−
モラ則の言葉が頭に響く。しぃ美は、やっとこの空間の恐ろしさに、恐怖し始めたのである。
しかし、何もかも遅かった。
「ハニャーン!! ギコクンタスケテー!! ダレカイナイノー!!」
必死に空間の中で叫び続けた。喉が枯れるほど叫び、喚き、慄き、騒ぎ散らそうとも、しぃ美の悲鳴は闇に吸い込まれていく
だけだった。
喉が枯れ、声が出せない。走り続けたのがいけないのか、足が痛くて動けない。
何も出来なくなってしまった。しぃ美は、ただ時間を何もしないまま過ごしていった。
空腹すらも感じない。便意も、眠気も、何も感じないのである。
死に直結する感情は全て閉ざされている。無論、死ねない為に。一億年間。
この空間に閉じ込められてから23年。しぃ美は幾度も後悔の念に晒された。
「ナン・・・デ・・・・・・オシチャ・・・ッタ・・・ノ・・カ・・・ナ・・」
既に後悔の念と助けを求める涙を流したせいで、涙は枯れ果てていた。
25年が過ぎた。
しぃ美の脳がゆっくりと閉じていく。常に、頭に薄い膜を貼ったような意識がずっと続いている。
既に、しぃ美にはまともな考えは浮かばなくなっていた。
「カエリタ・・・・アヒャヒャ・・・イ・・・ヒヒ・・・・ギコク・・・・アヒャヒ・・ヒ・・・・ヒ・・ン・・・ドウシテ・・・・シィハ・・ケケ・・・ケナニモ・・・ワワワルクナナイノニ・・・・
ワルククックッククナイノニニニニニニニニニニニニ・・・・・・・・・・・・」
そして、ついに閉じ込められてから100年の歳月が過ぎた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ズ・・・・・イブン・・・・・ナガイコト・・・・・・・・・・・・・・イキタ・・・・ワ・・・・・・」
−後、どれくらい、こうしていたら、良いんだろう?−
何度そう思ったことか。しかし、思うだけで、帰れる訳は無かった。
しぃ美は、また無駄で虚無の時間を、永遠とも感じれる・・・いや、既に永遠と感じれるほど、時間を感じてはいなかった。
脳が殆ど閉じていたから。
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