そして、閉じ込められてから389年。
しぃ美は、既に考える事すら100年以上前にやめていた。

そして、閉じ込められてから621年が過ぎたある日・・・・・。

「・・・・・・ワタシ・・・シネナイノカナ?」

突然、そう思い始めた。そして、ありとあらゆる事をやり、自分の体を痛めつけ始めた。
自分の手を折り、歯を抜き、片目をくり抜き、足をもぎ、頭をかきむしり、頭蓋を削り、脳を救った。
しかし、苦痛も感じなかった。肉塊となっても、死ぬことは出来なかった。血も一滴も出なかった。
奇妙な事に、目玉をくり抜き、神経が切れてるのに、目は見えていた。床に落ちた目玉からは、床に落ちた視点が見えた。
血は血液の部分で止まっていた。脳みそを抉り出しているのに、思考はやけにはっきりとしていた。

しぃ美は悟った。

「・・・・・シヌコトモ・・・・デキナインダ・・・・」

そして、また考えるのを、やめた。また、虚無の時間が訪れた。

700年・・・・・

800年・・・・・

900年・・・・・

1000年・・・・・

2000年・・・・・

3000年・・・・・

そして、3927年が過ぎたある日、欠けた脳漿にまみれながら、しぃ美はある事を思った。

「ワタシハ・・・・イッタイ、ナニモノナノ?」

そんな突拍子も無い事を思った瞬間、次々と疑問が洪水を如く溢れてきた。

「ココハドコナノ? チキュウノドコ? ドウイウトコロナノ? ワタシハイキテルノ? シンデルノ? モシイキテルトシタラ、ドウシテココニキタノ?」

そんな普段どうでもいい事を、次々と自問自答していった。
そして、それについて、徹底的に考えてみることにした。
というか、しぃ美は今の途轍もなく長い時間を少しでも潰せれば良かった。
自分で抜いた歯を鉛筆かわりにして、地面のタイルに自分の血を使って書いていった。
自分で疑問し、答え、書き、また考え、重い、また、書く。
それを次々と繰り返していった。何度も、何度も。

時間は、淡々と過ぎていく。一匹の雌猫の自問自答を見守りながら。

5000年・・・・・

6000年・・・・・

8000年・・・・・

10000年・・・・・

20000年・・・・・

50000年・・・・・

そして、閉じ込められてから、ついに10万年が過ぎた。
しぃ美の考えは既に人智の及ぶ程では無い所にまで達していた。

あらゆる自問自答、考えを巡らしていく内、自分の中の考えはどんどん飛躍していき、
ついに物事のあらゆる法則、摂理、論理・・・

何もかもが、しぃ美の・・・・いやしぃ族の貧相な脳でも、全てが理解出来てしまったのである。
とっくに、自分の歯は全て鉛筆として削り終えていた。体の骨を鉛筆代わりに使った。
それも全て使い果たした。

しぃ美は、床をなめてへこましていった。
途方も無い時間がかかった。しかし、しぃ美には時間という概念にたいする神経が
既に麻痺していたのだろう。何も感じなかった。一文字書くのに50年かかった。

そして、329万5689年が経過した時、しぃ美は宇宙を理解した。
しぃ美は既に麻痺している神経で、ほんのわずかな達成感を感じた。
そして、また何も考えなくなった。

しぃ美は、残りの9670万4311年。空間と調和した。何も考えず、ただ、そこにいた。

−何もしなくて良いです。ただ、其処にいさえすれば。−

最後の意識・・・それはモララーの言葉だった。それを理解し、何も考えなかった。もう、何も。
全ての体の骨を削り取り、目玉は片方のみ。血管はむきだしになった状態で、何百万年も動いていた。脳の頭蓋は自分で鉛筆がわりにし、
無くしていた。そんな見るも無残になったしぃ美であったが、本人は苦痛に感じていなかった。

実際、苦痛を感じる感情は麻痺していた訳だが。



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